豆に熱はどう入るか — 熱の内訳と、プローブが見ているもの

ドラム式は伝導、熱風式は対流。そして「対流70:伝導30」という割合がよく引かれます。けれど、この割合には測定も計算も付いていません。しかも、私たちが焙煎ログで見ている豆温(豆温度)は、豆の温度そのものではありません。プローブ自身の予熱と蓄熱(熱慣性)が読みに混ざっています。熱が豆へ入る経路について、何が確かめられていて、何がまだ測られていないのかを分けていきます。

シェア
焙煎の科学
最終更新: 2026-09-14 / 信頼度: 中〜高(「根拠がない」という否定の側は複数の流通元をたどって確認済み。機種ごとの内訳はほとんど測られていません)
専門用語は出てくるたびに説明します。予備知識は要りません。

結論から

  • 「対流70:伝導30」は、一次の測定でも計算でもない。出所は実務書に記された私信で、ある匿名のメーカー担当者が自社機について「見積もった」数字である。ただし誤りだと言い切ることもできない。小型機の内訳を測った研究が、そもそも存在しないからである。
  • 名指しの工学計算が存在する唯一のスケール(約113 kg 機)では、伝導は対流の 3.5%、放射は 7% 相当。ただし豆量に対するドラム内面積はバッチが小さいほど大きくなるので、小型機へは移せない。
  • 豆は熱を受けるだけでなく、自ら発熱し、同時に水の蒸発で自らを冷やしている。発熱は豆自身のエネルギー需要の 1/6〜1/3 を賄うが、その大半が蒸発冷却と相殺されるため、豆温カーブにはほとんど現れない
  • 実務が見ている豆温は、プローブの指示値であって真の豆温ではない。投入直後の折り返し点は、プローブが自分の予熱を捨てて豆に追いつく過程の折り返し点である。熱電対の径を 0.50 mm から 1.50 mm に変えるだけで、同じ焙煎の発熱の立ち上がりが 11秒・4.5℃ 動く。
  • 加熱機構そのものを振り、かつ到達焙煎色を揃えた官能比較は、まだ一本も無い。だから「ドラムと熱風のどちらが味で優れるか」には、現状では答えられない。答えが出ていないのではなく、その問いを切り出す実験設計がまだ無い

続きを読む

透過式の不均一な流れ — 自己増幅するしくみと、測られていない一段目

同じ粉を同じ量、同じ湯で淹れても、味が揃わないことがあります。原因としてよく挙がるのが「チャネリング」、つまり湯が粉の層の一部だけを通り抜けてしまう現象です。たいていの説明はここで止まります。この記事はその先を見ます。不均一な流れ(不均一抽出)は偶然のムラではなく、自分で自分を大きくするしくみを持っている。ただし、そのしくみの一段目は、まだ誰も測っていません。

lock-1

湯温は手段であって目的ではない — 抽出変数が味に届く経路

抽出の解説は、たいてい設定値の列で書かれています。「湯温(抽出温度)は93℃」「挽き目は中細」「比率は1対16」。ところが少なくとも湯温については、設定値そのものが味を決めているのではないことを示す実験があります。変数は、いったん別の量に変換されてから味に届いている。この記事では、その経路がどこを通っているのか、経路をたどらずに味へ抜ける例外は何なのかを順に見ていきます。

lock-1

メラノイジンが足しているもの — 収斂味と、「量が動く」という話の中身

メラノイジンは、コーヒーの解説でよく「苦味とコクの正体」として名前が挙がります。ところが直接の官能証拠が示しているのは、苦味ではありません。そして「抽出方式でカップの中のメラノイジン量が 4 倍以上変わる」という、よく引かれる数字の出どころをたどると、そこにあるのは実測ではありませんでした。この記事では、何がどこまで測られていて、どの数字がどういう性格のものなのかを確かめていきます。

lock-1

濃度と知覚のあいだ — 同じ量のカフェインが、同じ強さに苦くない

抽出の話は、たいてい「どれだけ溶け出したか」で終わります。濃度を測り、収率を計算し、そこから味を読む。ところが溶けた量と、口で感じる強さは、同じものではありません。同じ濃度の同じ分子が、周りに何があるかで違う強さに苦くなる。それを官能試験まで伴って示した研究が、この数年のあいだに独立した二つの系統から出ています。この記事では、その二つが何を測ったのか、どこまでが言えてどこからが言えないのかを順に見ていきます。

lock-1