豆に熱はどう入るか — 熱の内訳と、プローブが見ているもの
ドラム式は伝導、熱風式は対流。そして「対流70:伝導30」という割合がよく引かれます。けれど、この割合には測定も計算も付いていません。しかも、私たちが焙煎ログで見ている豆温(豆温度)は、豆の温度そのものではありません。プローブ自身の予熱と蓄熱(熱慣性)が読みに混ざっています。熱が豆へ入る経路について、何が確かめられていて、何がまだ測られていないのかを分けていきます。
専門用語は出てくるたびに説明します。予備知識は要りません。
結論から
- 「対流70:伝導30」は、一次の測定でも計算でもない。出所は実務書に記された私信で、ある匿名のメーカー担当者が自社機について「見積もった」数字である。ただし誤りだと言い切ることもできない。小型機の内訳を測った研究が、そもそも存在しないからである。
- 名指しの工学計算が存在する唯一のスケール(約113 kg 機)では、伝導は対流の 3.5%、放射は 7% 相当。ただし豆量に対するドラム内面積はバッチが小さいほど大きくなるので、小型機へは移せない。
- 豆は熱を受けるだけでなく、自ら発熱し、同時に水の蒸発で自らを冷やしている。発熱は豆自身のエネルギー需要の 1/6〜1/3 を賄うが、その大半が蒸発冷却と相殺されるため、豆温カーブにはほとんど現れない。
- 実務が見ている豆温は、プローブの指示値であって真の豆温ではない。投入直後の折り返し点は、プローブが自分の予熱を捨てて豆に追いつく過程の折り返し点である。熱電対の径を 0.50 mm から 1.50 mm に変えるだけで、同じ焙煎の発熱の立ち上がりが 11秒・4.5℃ 動く。
- 加熱機構そのものを振り、かつ到達焙煎色を揃えた官能比較は、まだ一本も無い。だから「ドラムと熱風のどちらが味で優れるか」には、現状では答えられない。答えが出ていないのではなく、その問いを切り出す実験設計がまだ無い。