メラノイジンが足しているもの — 収斂味と、「量が動く」という話の中身
メラノイジンは、コーヒーの解説でよく「苦味とコクの正体」として名前が挙がります。ところが直接の官能証拠が示しているのは、苦味ではありません。そして「抽出方式でカップの中のメラノイジン量が 4 倍以上変わる」という、よく引かれる数字の出どころをたどると、そこにあるのは実測ではありませんでした。この記事では、何がどこまで測られていて、どの数字がどういう性格のものなのかを確かめていきます。
専門用語は出てくるたびに説明します。予備知識は要りません。
結論から
- メラノイジン画分が与えるという直接の官能証拠があるのは、苦味ではなく収斂味である。ただし効果は控えめで、著者ら自身が「統計的には有意だが完全ではない」「かすかだ」と書いている。
- 「メラノイジンは苦味を隠すのか、自身が苦いのか、差し引きの符号はどちらか」という問いは成立しない。苦味は味覚受容体の話、収斂味は口の中の触覚の話で、足し引きできる同じ量ではない。
- ところが焙煎度・産地・抽出温度を振った抽出実験では、収斂味は何によっても動かなかった。三つの F 値がすべて 1 を下回る。最も無理のない説明は「収斂味を担う画分の量が、焙煎度では変わらない」である。
- 「ボディ」は単一の感覚ではない。少なくとも 4 つの下位属性に分かれ、メラノイジンが与えるのはそのうち一つだけ。しかも別の一つは、原因成分の濃度が上がるほど知覚が下がる。
- 「1 杯あたり 99〜433 mg」は実測ではなく推定計算である。先行文献の平均値に、仮定した 1 杯の容量と粉水比を掛けた値で、「1 杯あたり」と「1 mL あたり」は独立な二つの見方ですらない。同じ推定値を、仮定した容量で割っただけである。