濃度と知覚のあいだ — 同じ量のカフェインが、同じ強さに苦くない
抽出の話は、たいてい「どれだけ溶け出したか」で終わります。濃度を測り、収率を計算し、そこから味を読む。ところが溶けた量と、口で感じる強さは、同じものではありません。同じ濃度の同じ分子が、周りに何があるかで違う強さに苦くなる。それを官能試験まで伴って示した研究が、この数年のあいだに独立した二つの系統から出ています。この記事では、その二つが何を測ったのか、どこまでが言えてどこからが言えないのかを順に見ていきます。
専門用語は出てくるたびに説明します。予備知識は要りません。
結論から
- カフェインに高分子を加えると、苦味の評点は基準 5.0 に対して 2.5 まで下がる。ただしこの 5.0 は測られた強さではなく、実験者が基準として与えた値である。下がった先の 2.5 は「絶対の強さの半減」ではなく「基準に対する位置の半減」であり、点数は倍率として読めない。
- 長く犯人と目されてきたカフェイン–クロロゲン酸複合体は、苦味を変えなかった。複合体ができること自体は測定で確認されるのに、官能には現れない。しかも「1972 年以来そう疑われてきた」とされる原典には、味への言及が一行もない。
- 調節しているのは高分子だけではない。再構成による官能試験で因果まで確かめられた調節成分は、苦味を抑える側も強める側もすべて低分子である。濃度の桁は低分子側が二桁高い。
- 苦味を強める 5 成分は、それ自体には苦味がなく、混合物としてのみ効いた。成分を一つずつ足して味を組み立てられるとは限らない。同じ研究室の別の報告では、逆に混ぜると相加すら起きていない。
- 知覚の手前に、もう一段ある。飲む人の受容体である。ある苦味成分群への感じやすさは、受容体遺伝子の有無と同じ向きに動いた。ただしこれは検定を伴う相関ではなく、群あたり 2 名の傾向の報告にすぎない。