抽出温度と味 — 熱い抽出と冷抽出では、何を揃えて比べた?
Batali ら (2020:抽出温度の研究)とBatali ら (2022)は、同じ研究グループが続けて行った研究で、どちらも抽出温度と味を調べています。でも同じ実験をしたわけではありません。まず「何を変えたか」「何を揃えたか」を並べます。
COFFEE PAPER STUDIO / 抽出温度と味 / 研究くらべ
読む時間の目安:約5分。
専門用語の再確認
TDS(total dissolved solids):液に溶けた成分の質量割合。
収率(extraction yield):元の粉に対して、取り出した成分が占める割合。
有意差(statistically significant difference):決めた統計基準で差があると判定されたこと。
Batali ら (2020:抽出温度の研究)とBatali ら (2022)は、同じ研究グループが続けて行った研究で、どちらも抽出温度と味を調べています。でも同じ実験をしたわけではありません。まず「何を変えたか」「何を揃えたか」を並べます。
| 読む観点 | Batali ら (2020:抽出温度の研究):熱い範囲で比較 | Batali ら (2022):冷抽出まで広げる |
|---|---|---|
| 問い | 濃度(concentration)・収率(extraction yield)を揃えても、抽出温度で官能特性は変わる? | 低温まで広げ、濃度と提供温度を揃えた場合は? |
| 抽出方式と温度 | ドリップ。87・90・93°C。 | 全浸漬(immersion)。4°C環境・22°C環境・92°Cの湯で開始する条件。 |
| 温度の注意 | 熱い温度帯の比較。 | 4°C条件も22°Cの水から冷蔵へ。92°C条件は室温で冷めていく。全時間を92°Cに保った実験ではない。 |
| 濃度(TDS(total dissolved solids)) | 9つの濃度・収率の組み合わせ。それぞれの目標で温度間を揃える。 | 抽出後に希釈(dilution)し、提供時は全試料(sample)2%に揃える。 |
| 収率(PE) | 温度間で目標を揃えるため、挽き目や時間などを調整。 | 抽出平衡(equilibrium)を目指すが、収率は同じではない。温度別平均は19.55/20.74/22.28%。 |
| 提供温度 | 65 ± 1°C。 | 冷蔵温度4°Cに揃える。 |
| 比較の広さ | 同一の焙煎コーヒーで27条件。 | 3産地 × 3焙煎度 × 3温度条件=27条件。 |
| 主な結果 | 官能特性全体の多変量解析で温度主効果は有意でなく、濃度と収率の影響が大きい。個別属性ではNuttyに温度差。 | 温度主効果で差が出たのはfloral・rubber・bitter・sour。冷条件でfloralが強く、熱条件で他の3属性が強い方向。 |
| 残る限界 | 冷抽出や、挽き目・時間を固定して湯温だけ変えるレシピには、そのまま当てはまらない。 | 収率や時間・温度履歴も違う。全差を「一定温度だけの純粋な効果」とは言えない。 |
出典:[Batali ら (2020):Introduction末尾・Results・Methods]、[Batali ら (2022):§2.1、2.3–2.5、3.1、3.3]。両研究は著者・研究グループが重なり、独立研究室による再現2例ではありません。
Batali ら (2020)は「熱い狭い温度範囲で、濃度と収率を揃えたら?」、Batali ら (2022)は「冷抽出まで広げ、濃度と提供温度を揃えたら?」。実験条件が違うため、二つの結果は直ちに矛盾しません。一方、違いの原因をこの2本の比較だけで一つに特定することもできません。
はじめの一歩に戻る → 問いに合わせた抽出条件の変更
研究結果:揃えた条件が違うと、読める答えも変わる
Batali ら (2020:抽出温度の研究)は、87・90・93°Cのドリップで濃度と収率を目標に揃えました。味・香り全体をまとめた解析では温度による有意差(statistically significant difference)が示されず、個別の31属性ではNutty(ナッツ様)に温度差がありました。これに対してBatali ら (2022)は冷蔵条件まで広げた浸漬抽出で、花様、ゴム様、苦味、酸味に温度条件による差を報告しました。
後者は試飲する液をTDS 2%と4°Cに揃えていますが、抽出時の収率や時間まで同じではありません。前者の「熱い範囲で濃度・収率を揃えた答え」を、後者の低温・長時間抽出へそのまま広げないことが読み分けの要点です。
このページの用語
| 用語 | 読み | 英語 |
|---|---|---|
| 濃度 | のうど | concentration |
| 収率 | しゅうりつ | extraction yield |
| 浸漬 | しんし | immersion |
| TDS | ティーディーエス | total dissolved solids |
| 希釈 | きしゃく | dilution |
| 試料 | しりょう | sample |
| 平衡 | へいこう | equilibrium |
| 有意差 | ゆういさ | statistically significant difference |
ふりかえり
Batali ら (2022)の提供時TDSが同じなら、元の粉から取り出した成分量も同じでしょうか?
答えを見る
いいえ。抽出した後で水を足せば、取り出した固形分量を変えずに濃度を揃えられます。Batali ら (2022)では抽出時の収率が温度条件で異なっています。はじめの一歩「濃度と収率の違い」の図へ
出典:Batali ら (2020:分画の研究、抽出温度の研究)/Batali ら (2022)。
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