苦味と収斂味の化学 — クロロゲン酸が通る道
クロロゲン酸そのものは苦くありません。苦いのは分解生成物で、しかも段階によって質の違う二種類の苦味になります。さらに「エグみ」「渋み」と呼ばれる収斂味は、苦味とは別の感覚系統に属します。この記事では、その三つを分けて扱います。
専門用語は出てくるたびに説明します。予備知識は要りません。
結論から
- 1段目のキニドは、脱カフェイン抽出液の苦味の8割程度を説明する。ただしこの「8割」には4つの留保があり、通常のコーヒーの苦味の8割ではない。
- キニドは逆U字を描く。頂点は light medium(重量損失 約14%)で、浅すぎても深すぎても減る。焙煎パラメータの軸でも同じ形が出て、頂点は温度軸で 240℃、時間軸で 180秒。
- 2段目は「質」では裏づけがあるが、「量」では裏づけがない。刺すような苦味を持つことは官能で確かめられているが、抽出液中の寄与は 1段目の 1/100 以下。「深煎りでは2段目が主役」は、まだ定量では言えない。
- キニドを酵素で外すと苦味が有意に下がる。因果の証拠がある。一方で相関の研究では苦味の差を説明する変数として選ばれない。寄与の大きさと、差の説明力は別の量である。
- 収斂味は苦味とは別系統で、「浅煎りに残るクロロゲン酸が主因」は3系統の証拠で支持されなかった。担い手は二段カスケードの外側、5 kDa 未満の低分子側にいる。