器具が動かしているのは味ではない — 粒度分布・流れの場・平衡までの距離
グラインダー(ミル)を替えたら味が変わった、ドリッパーを替えたら味が変わった。器具の話は、たいていこの形で語られます。ところが器具そのものが味を作っているわけではありません。器具が動かしているのは、挽き目(粉の粒がどう散らばっているか)、湯がどこを速く通るか、抽出が終点からどれだけ手前にいるか。この三つだけです。この記事では、その三つを順に見て、どこまでが測られていて、どこから先が測られていないのかを整理します。
専門用語は出てくるたびに説明します。予備知識は要りません。
結論から
- 器具が決めているのは味ではなく、三つの量である。粒度分布・流れの場・平衡までの距離。器具の比較は、まずこの三つのどれを動かす話なのかに翻訳してから行う。味に届く経路は、そこから先に推定でつながっているだけである。
- グラインダーの設定は「粒の大きさを選ぶつまみ」ではない。設定を細かくしても微粉そのものの大きさは変わらず、増えるのはその比率だけである。選んでいるのは大きさではなく、二つの山の混ざり方である。
- バリの形の差は、査読を経た測定で押さえられていない。査読誌にあるのは摩耗と、砕き方の機構の違いであって、形の比較ではない。しかも査読の外にある実測では、分布が違っても収率はほぼ揃った例がある。
- タンピングの圧は効かない。約30倍の力の差を振っても、流量にも抽出の進み方にも検出できる差が出なかった。効いたのは粒径だけである。これはこの話題では珍しい、査読を経た実機の測定である。
- ここに書いてあることの大半は、器具を測っていない研究から引き出したものである。器具そのものを替えて盲検で味を評価した試験は、探せる範囲にほぼ存在しない。この記事は、その空白の形を示す記事でもある。