透過式と浸漬式 — 方式の差は、溶媒が入れ替わるかで決まる
抽出器具の解説は、たいてい器具の名前から始まります。ペーパードリップ、フレンチプレス、エアロプレス、エスプレッソ、水出し(コールドブリュー)。けれども、これらを本当に分けているのは圧力でも形でもありません。粉の粒子のまわりにある液が、入れ替わるかどうか。その一点です。この記事では、その一点がどこまでのことを決めていて、どこから先がまだ測られていないのかを順に見ていきます。
専門用語は出てくるたびに説明します。予備知識は要りません。
結論から
- 方式を分けているのは圧力ではなく、溶媒が入れ替わるかどうかである。浸漬式は抽出が進むほど周囲の液が濃くなって自分から減速し、透過式は常に薄い新しい水が来るので減速しない。ただしこれは物理の側の整理であって、味の違いを測った結果ではない。
- 浸漬式の到達点は、どの器具でもほぼ同じである。平衡での収率はおよそ 21%。粉と湯の比率・挽き目・焙煎度を振っても動かない。器具とレシピが決めているのは、平衡までの道のりのどこで止めるかだけである。
- ただし「動かない」は言いすぎだった。湯温だけは到達点そのものを動かす。全浸漬の平衡収率は 4℃ で 19.55%、92℃ で 22.28%。熱水は冷水よりおよそ 13% 多く取り出している。帯の下端を決めているのは低温側である。
- 「方式を変えると味が変わる」を確かめた実験は、実は無い。濃度と収率を揃えたうえで方式だけを変えた盲検の官能試験は存在しない。しかもこれは探し方の問題ではなく、2020 年にこの分野の研究群が自分たちの論文の考察でこの実験を今後の課題として名指しし、そのまま残っているという意味での空白である。
- 浸漬式の中の温度軸だけは、答えが出はじめている。濃度を揃えても温度の差は残る。そして長時間の低温が短時間の高温と重なる組み合わせも見つかっている。ただしその重なりが起きるのは浅煎りだけで、深煎りでは重ならない。