甘さはどこから来るのか — 糖だけでは説明できない
「糖を残せば甘くなる」という説明は、コーヒーでは途中までしか正しくありません。実際に測ると、抽出液の糖は人が甘さを感じ取れる濃度に届いていない。それでもカップの甘さは実在し、試料によってはっきり差がつきます。では、何が甘いのか。糖が落ちる理由、鼻から入る香りの分、他の味からの抑制、そして採点用紙の「Sweetness」欄が測っているものを、順に分けていきます。
専門用語は出てくるたびに説明します。予備知識は要りません。
結論から
- 抽出液の糖は、甘さを説明できる濃度に届いていない。ある測定では最大約 100 mg/L で、ショ糖を人が検知する濃度の約 1/20。しかも総糖量が最も多い試料が最も甘くないと評価されています(Cordoba ら, 25 Magazine 22)。ごく浅い焙煎では 969 mg/L の報告もありますが(Birke Rune ら, 2023)、それでも下限には届きません。
- 甘さは舌と鼻の両方から来る。鼻を塞ぐと試料間の差は 6.0 点から 3.6 点へ縮みますが、消えず、順位もおおむね保たれます(Cordoba ら, 25 Magazine 22)。∴「甘さは香りだけ」も行き過ぎです。
- 口の中では味どうしが抑え合う。しかも一方通行である。甘味は苦味を強く抑えるのに、苦味は甘味をほとんど抑え返しません(Calviño ら, 1990/Choo ら, 2017)。ただし数値の出所は砂糖や酸を大量に添加した実験で、自然な一杯の効果量には使えません。
- 焙煎の軸では、甘さと酸味は同じ向きに動く。焙煎色をそろえてディベロップ時間だけを延ばすと、甘さも酸味も一緒に下がり、苦味と収斂味が上がりました(Alstrup ら, 2020)。1つの操作が複数の成分を同時に動かしているだけで、「酸味を足せば甘さが増える」ではありません。
- 「Sweetness」という同じ語が、4つの別の量を指している。旧フォームの杯ごとの二値判定、記述評価の 0〜15 の強度、際立つ味のチェック欄、嗜好評価の 9 段階。どの欄かを書かずに数値を並べれば、何も比べていないことになります(Specialty Coffee Association of America, 2015/Specialty Coffee Association, 2024a, 2024b)。