水の規格が引いている2本の線 — 狭いほうは、味のためではない

「コーヒーに向いた水」の話は、たいてい硬度から始まります。ところが業界の水質規格そのものを開くと、硬度に許されている幅はかなり広く、狭く決められているのはもう1本の軸、アルカリ度(主に重炭酸イオンが担う量)のほうです。しかもその狭いほうの下限は、味の理由で引かれていません。この記事では、規格が実際に何を書いているのか、その数値がどこから来たのか、そして規格が答えていない部分がどこに残っているのかを順に見ていきます。

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抽出の科学
最終更新: 2026-09-14 / 信頼度: 中〜高(規格文書の原文と、水の物理を直接測った査読論文の本文を参照して書いています。規格が何を書いているかは堅い。ただし規格の数値それ自体の科学的根拠は、規格文書に示されていません)
専門用語は出てくるたびに説明します。予備知識は要りません。

結論から

  • 水質規格は、水を2本の軸で見ている。硬度と、アルカリ度である。そして幅が広いのは硬度のほうで、狭いのはアルカリ度のほう。硬度を細かく詰めるより先に、アルカリ度を合わせる順序になる。
  • その狭いほうの下限は、味のためではなく機械のために引かれている。アルカリ度が低すぎると配管や機械が腐食する。業界団体の小冊子と、独立した査読論文の両方が、同じことを書いている。
  • 実務でいまも引かれる「8項目の表」は、現行の規格ではない。2009年の版は2018年の版に上書きされていて、総溶解固形分・色・ナトリウムの3項目は表から消えている。数値も変わっている。
  • そのうえ、規格団体の公開している規格一覧に、水質規格が載っていない。撤回されたのか、番号体系の付け替え待ちなのかは、外からは判別できない。
  • 規格の数値そのものの根拠は、規格文書に書かれていない。70年前の一次論文まで遡ると、そこで決め手として挙げられている報告は、書誌の形までしか辿れない。「実測に支えられていない」のではなく、追跡できないのである。

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