ミネラルは抽出を変えるのか、知覚を変えるのか — 水が効く経路を分ける
「マグネシウムの多い水のほうがよく抽出できる」という言い方は、広く流通しています。その根拠として引かれる論文は、実は計算だけで、抽出実験も官能試験もしていません。一方で、水(カルシウムやマグネシウムの量)を変えても取り出された成分の量は変わらないのに味だけが変わった、という測定はいくつもあります。この記事では、水が味に届きうる経路をいくつかに分け、どの経路がどこまで実測に支えられているのかを見ていきます。
専門用語は出てくるたびに説明します。予備知識は要りません。
結論から
- 業界の通説の根拠になっている論文は、計算である。抽出実験も官能試験もしていない。しかも溶媒、つまり水の効果は計算から除外されている。水の中の話をしているのに、採用されたのは気体の中の計算である。
- 陽イオンを抽出の前に入れても、抽出の後に入れても、有機酸の量は同じだった。飲料水で典型的な濃度では。つまりこの範囲では、陽イオンは酸の取り出され方そのものを動かしていない。
- 第3の経路がある。水そのものが、呈味成分としてカップに入る。ナトリウムだけが水を追ってカップに移り、1 ppm に満たない差で盲検の「クリーン」評価が下がる。逆にカップの中のマグネシウムとカルシウムは大半が豆から来ていて、硬度を振ってもほとんど動かない。
- 第4の経路もある。味ではなく、泡。炭酸水素イオンが増えるとクレマの量は増える。ただしその泡は持たない。量と持続性は逆を向く。
- 実測に支えられている経路がひとつだけある。水は、湯が粉の層を通る速さを変える。ただし測られているのは時間であって、溶け出す量でも味でもない。